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2016年4月17日(日)

一大センセーションを巻き起こしてきた東京フィルxバッティストーニ。
5月来日を目前に、若き巨匠が語る故郷の音楽。

聞き手:井内美香





©上野隆文 

 ヴェルディ(1813-1901)は説明する必要はないと思います。『ナブッコ』は僕が日本にデビューしたオペラでした。2012年に二期会の公演を指揮し、その時のオーケストラは東京フィルでした。東京フィルと出会った時の曲をまた一緒に演奏できるのは嬉しいです。
ロータとレスピーギは、20世紀のイタリアのそれぞれ違う時期を代表する作曲家です。それぞれの理由により二人とも偉大な作曲家です。

 レスピーギ(1879-1936)は、彼の年代の他のイタリアの作曲家達と同様に、イタリアをオペラの国から、クラシック音楽全ジャンルで重要な国にしようとした人でした。つまり、シンフォニー分野においてイタリア独自の音楽を創造しようとしたのです。それ故このような交響詩では、イタリアの風物、美術などを好んで取り上げ、『ローマ三部作』(1915-1928)などもその一例です。イタリア美術に関する曲としては『ボッティチェッリ三部作』(1927)があります。この『教会のステンドグラス』(1925)は、イメージを喚起するためだけにつけられた題名ではありません。この曲はグレゴリオ聖歌の可能性の研究のために書かれています。音楽は教会の4枚のステンドグラスを表していますが、グレゴリオ聖歌のメロディーからインスピレーションを得ただけでなく、それをベースにしてオーケストラ曲として発展させた作品です。

 ニノ・ロータ(1911-1979)は、レスピーギの次の世代ですが、彼の同時代の特徴から外れた作風を持つ人です。当時イタリアはモダニズムの本拠地として、12音技法や無調など、前衛的な音楽を強力に推進していました。その中でロータは完璧なアウトサイダーでした。彼は調性音楽に強く結びついた音楽家で、クラシック音楽だけでなく映画音楽を数多く手がけて有名でしたし、折衷主義のスタイルで器楽曲、オペラ、シンフォニー、映画音楽を書き、音楽院でも教え、とても多作で活動的な人でした。

 しかし彼は、シンフォニーの分野ではレスピーギなどの1880年代生まれの作曲家達のスタイルをしっかり引き継いでおり、そこにイタリアに典型的なカンタービレの、偉大なるメロディーメーカーとしての面を併せ持っています。シェーンベルク、ウェーベルン、ベルクのようなドイツ楽派ではなく、それと反対のストラビンスキーやプロコフィエフの系列にある音楽を汲んでいます。それは1950年代以降のクラシック音楽のもう一つの重要な潮流でしたから。

 組曲『道』(1966)には聴き覚えのある音楽が出てきます。ロータはちょっとロッシーニのような作曲家でした。一曲作曲するとそこからたくさんの音楽を再利用していたのです(笑)。ですから、それを作曲家自身が宣言するしないに関わらず、映画の音楽の断片をシンフォニーやもっと小規模の室内楽曲にも転用することはよくありした。彼にとっては映画音楽も純クラシック音楽も同じだったのです。一つのインスピレーションから、様々な分野の音楽を書いたのです。ですから『道』は映画音楽として生まれましたが、その後にバレエ音楽になり、そしてとても美しいこの組曲『道』になりました。20世紀のイタリアのシンフォニー曲の中でもっとも興味深い曲の一つです。


――ニノ・ロータは日本でも映画作曲家としてはよく知られています。
クラシック音楽の作曲家としてはリッカルド・ムーティ指揮の録音等があります…


 ムーティはロータの直接の弟子だったんです。ムーティは南イタリアのバーリ音楽院で学びましたが、バーリ音楽院はニノ・ロータが創設し、彼が学長をつとめる音楽院でした。


※リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti, 1941- )… ナポリ生まれのイタリア人指揮者。シカゴ交響楽団音楽監督。


――ニノ・ロータはオペラもいくつか書いていますね?


  そうです。僕もロータの音楽はかなり指揮しています。オペラでは『フィレンツェの麦わら帽子』※1をフィレンツェ歌劇場で指揮しました。イタリアらしいメロディがあふれたとても楽しい作品です。ロータは個人的にとても好きな作曲家です。近年、イタリアでロータが演奏される機会は増えています。リバイバルですね。僕はオペラの他にも弦のためのコンチェルトや、チェロ協奏曲第2番などを演奏しています。チェリストとしてではなく指揮者としてですが(笑)。ロータは交響曲を4曲も書いているんです。彼の映画音楽はもっとも親しみやすい分野ですから広く愛されているのは当然です。ピアノとオーケストラのための『コンチェルト・ソワレ』※2は、彼の作曲した中でももっとも美しい曲の一つではないかと思いますが、映画『8と1/2』(1963)の中の音楽がはっきり出ています。他にもそういう例はたくさんあるのです。


※1『フィレンツェの麦わら帽子』…ニノ・ロータの代表的なオペラ・ブッファ(喜歌劇)1955年、パレルモのマッシモ劇場で初演された。

※2『コンチェルト・ソワレ』…1961~62年に作曲されたピアノ協奏曲。『夕べの協奏曲』とも。


――演奏会がとても楽しみです。今日はどうもありがとうございました。



井内美香(いのうち・みか)

 1963年静岡県沼津市生まれ、東京育ち。音楽ライター。学習院大学修士課程とミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとしてオペラ、バレエに関する執筆、通訳、来日公演コーディネイトの仕事に20年以上携わる。2012年からは東京在住となり、オペラに関する執筆、取材、講演の仕事をしている。共著書「200CDアリアで聴くイタリア・オペラ」(立風書房)、「バロック・オペラ その時代と作品」(新国立劇場運営財団 情報センター)、訳書「わが敵マリア・カラス」(新書館)、等がある。オペラ台本翻訳、字幕制作も数多い。




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