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2015年12月31日(木)

アンドレア・バッティストーニ、東京フィルとの次シーズンを語る!



≪アイーダ≫舞台写真
©MarcusLieberen​z

2013年春、レスピーギ《ローマ三部作》で東京フィル定期に初登場し絶賛されて以来、指揮台に上がるたびに旋風を巻き起こし続けるアンドレア・バッティストーニ。今シーズンより首席客演指揮者に就任、その披露を兼ねた《トゥーランドット》(演奏会形式)が空前の成功を収めたことも記憶に新しい。今もっとも注目を集める若き天才が来シーズンに組んだプログラムも、思わず目を見張りたくなる魅力に満ちている。ベルリン・ドイツ・オペラで新制作の《アイーダ》を振って大喝采を博したばかりのマエストロに、次シーズンのプログラムについて語ってもらった。


取材・文=加藤浩子




――《トゥーランドット》のCD発売おめでとうございます。
この作品の音楽がとても斬新だということがよくわかる演奏ですね。


ええ。《トゥーランドット》はまさに20世紀のオペラであり、プッチ=ニがバルトークやストラヴィンスキー、ラヴェルなどをよく研究していたことが反映されている作品です。


――東京フィルとは次シーズン以降も演奏会形式によるオペラを続けられるそうですが、第2弾はマスカーニの《イリス》(10月)です。



ベルリン・ドイツ・オペラ《アイーダ》
終演後の楽屋にて

 マスカーニは大好きな作曲家のひとりです。その時々の創作に飽き足らず、勇気を奮って絶えず新しい道を求め続けたからです。周知のように彼は《カヴァレリア・ルスティカーナ》で有名になったわけですが、たとえば《カヴァレリア》の次のオペラである《友人フリッツ》は、伝統的な形式で書かれた《カヴァレリア》のわずか1年後に発表されたとは信じられないほど新しいオペラです。イタリア・オペラではじめて「日本」を舞台にした《イリス》も、《カヴァレリア》とは全然違います。《イリス》は、物語は荒唐無稽かもしれませんが、この作品で重要なのは、想像のなかの夢の国である日本を背景に醸し出される異国趣味やオリエンタリズムです。その点で、同じ日本を舞台にしていても、西洋と東洋の間の溝がテーマになっていて、よりリアルな物語である《蝶々夫人》とは異なります。《イリス》は《蝶々夫人》より、東洋のおとぎ話である《トゥーランドット》により近いですし、《トゥーランドット》の重要なモデルになった作品だといえます。音楽も、《蝶々夫人》のように日本の旋律が出てくるわけではなく、ナポリ民謡のようなものですが(笑)、マスカーニのスコアはとても洗練されていて、魅力を感じます。



――《イリス》以外のプログラムも、バッティストーニさんでしか考えつかない魅力的なものになっていると思います。たとえば10月の《イリス》の前後に、ベートーヴェンの《運命》をメインに、ヴェルディの《ルイーザ・ミラー》序曲、《マクベス》のバレエ音楽、ロッシーニの《ウィリアム・テル》序曲で構成されたプログラムを振られますが、大変興味をそそられます。なぜこのような組み合わせを思いつかれたのでしょう?



ジョアキーノ・ロッシーニ

  このプログラムを貫いているのは「運命」というテーマです。ヴェルディのオペラでは常に「運命」が重要です。3人の魔女が運命を操る《マクベス》は好例ですし、《ルイーザ・ミラー》もそうです。さらに《ルイーザ・ミラー》の序曲は、単一のテーマが展開する形式で、《運命》とよく似ています。ベートーヴェンとヴェルディが色々な面で共通していることは、よく言われることです。
 一方で《ウィリアム・テル》ですが、ベートーヴェンがロッシーニの影響を受けていたことはよく知られています。《運命》第3楽章のホルンの響きや、ソリストたちのヴァリエーションやカデンツァなど、ロッシーニそのものではないでしょうか。ベートーヴェンは、ロッシーニの天才をよく知っていました。



――5月定期に登場するイタリア音楽のプログラムも、バッティストーニさんが意欲的に続けられているものですが、今回の3曲を選んだ理由をお聞かせください。



ベルリン・ドイツ オペラ前にて

 今回は、「宗教的」なテーマがこめられた作品を選んでみました。《ナブッコ》はご存知のように旧約聖書の「バビロン捕囚」をテーマにしたオペラですし、ニーノ・ロータの《道》は、同名の映画の音楽に基づいた組曲ですが、《道》という映画は宗教的な内容を持つと言われています。発表当時は、そのことで批判にさらされたほどです。でもロータは20世紀イタリアのもっとも重要な作曲家のひとりですし、この曲が名曲であることは間違いありません。レスピーギの《教会のステンドグラス》は、グレゴリオ聖歌からインスピレーションを得たピアノ曲が原曲で、極めて宗教的ですがとても美しい作品です。レスピーギの作品はこれからも取り組み続けたいと思っています。



――2017年の3月、シーズン最後のプログラムには、大好きだとおっしゃる《悲愴》も登場しますね。


  ええ、大好きですし、一番多く振っている交響曲のひとつです。けれど2年くらい間があいたので、新しい発見があるだろうとわくわくしてもいます。この作品が気に入っている理由のひとつは、伝統的な形式による「交響曲」の「死」を体現した作品だからです。《トゥーランドット》がイタリア・オペラを「殺した」ように。もちろん《悲愴》の後にも、「交響曲」と名付けられた作品は無数に生まれていますが、古典的な交響曲の鋳型に則ったものではありません。《悲愴》は、「交響曲」という形式の「遺書」なのです。




加藤浩子(かとう・ひろこ)

東京生まれ。慶応義塾大学大学院修了(音楽学専攻)。慶応義塾大学講師、音楽評論家。著書に「今夜はオペラ!」「オペラ 愛の名曲20+4選」(春秋社)、「黄金の翼=ジュゼッペ・ヴェルディ」「バッハヘの旅」(以上東京書籍)「さわりで覚えるオペラの名曲20選」「人生の午後に生きがいを奏でる家」(中経出版)「ヴェルディ」(平凡社新書)ほか著書、共著多数。最新刊は『オペラでわかるヨーロッパ史』(平凡社新書)。ヨーロッパへのオペラ、音楽ツアーの企画同行も行っている。

〈公式HP〉http://www.casa-hiroko.com/



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