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2018年9月21日(金)
トロンボーン首席 五箇正明 ©上野隆文
11月東京オペラシティ定期シリーズは、イタリアオペラの巨匠ロッシーニとウィーンの歌曲王シューベルトという少し意外な組み合わせ。古くは儀式や教会の音楽で「神の声」の役割を担ったトロンボーンが、ロッシーニやシューベルトの作品ではどのように描かれたのでしょうか。トロンボーン首席奏者、五箇正明が語ります。
<2018年11月定期の公演情報はこちら。>
ロッシーニの時代のトロンボーン
オーケストラのトロンボーン・セクション。
3人で演奏することが多い
©上野隆文
「ロッシーニの序曲は、実は同じ曲でも楽譜によってトロンボーンがあったりなかったりします。たとえば、『セビリアの理髪師』は、楽譜によって3本だったり、1本だったり、1本もなかったり。低音の補強という役割が多いので、作曲家の時代にも演奏されている空間や編成でトロンボーンの有無が変わっていたのではと推測します。マエストロ・バッティストーニがどの楽譜を使うのか気になるところです」
シューベルトが最後の交響曲『ザ・グレート』でトロンボーンに託したもの
シューベルトは今年、没後190年。
イタリア音楽の影響も受け、数多くの歌曲も書いた。
「ベートーヴェンが初めて交響曲にトロンボーンを用いたと言われますが、彼がトロンボーンに与えた役割は比較的明快です。『運命』ではトランペットと一緒にファンファーレ、『田園』では雷雨のシーン、『第九』ではいわば合唱の補強。ところがシューベルトはそのすぐ後の時代なのにトロンボーンの役割が全く違います。『グレート』は特に、ほかの金管楽器と比べても出番が非常に多いですし、他のどの作曲家とも違う、シューベルト独特の役割をトロンボーンに与えているように感じます。
たとえば、木管楽器と一緒にメロディを奏でる場面がとても多い。また、ハーモニーの楽器として書かれることが多いトロンボーンには珍しく、3人のトロンボーン奏者が「ユニゾン」、――同じメロディを同じ音で一緒に演奏する場面――も多く、その時はまるで男声合唱をイメージして書かれたように感じます。また、1番奏者だけが、木管楽器と一緒に「ピアノ」の音量で奏でる場面も多く登場します。
他の作曲家がトロンボーンに書いたような力強い「フォルテ」や、3人の奏者で和音を作る役割ではなく、ひとりひとりの奏者がオーケストラと密に寄り添って、メロディを軸に音楽を構築してゆく「室内楽的な」演奏スタイルが求められていると感じるのです。
じつはそういった曲は、演奏者にとってはシビアな面もあるのですが、同時に表現の自由度が増すということでもあります。大人数の編成で、大きく鳴らす機会も多い金管楽器ですが、シューベルトではそういった時とは違った注意深さや繊細さが求められる。一人ひとりの奏者の表現力が重要になってくるということです。
マエストロ・バッティストーニにはこれまでシューベルトのイメージはあまりなかったかもしれませんが、アイディアの豊かなマエストロですから「歌曲王」とも呼ばれたメロディ・メーカーであるシューベルトの音楽を、どのようにオーケストラから引き出すのか……。楽譜を見ているとマエストロの作る音楽のイメージが浮かんでくるようで、楽しみです」。
首席指揮者バッティストーニとの東京オペラシティでの公演。 (C)上野隆文
(2018年8月のインタビューより)
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首席指揮者アンドレア・バッティストーニ指揮 11月定期演奏会 <バッティストーニがつむぐ芳醇な「うた」の心>
11月12日[月]19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
指揮:アンドレア・バッティストーニ(東京フィル 首席指揮者)
ロッシーニ/歌劇『アルジェのイタリア女』序曲
ロッシーニ/歌劇『チェネレントラ』序曲
ロッシーニ/歌劇『セビリアの理髪師』序曲
- 休憩 -
シューベルト/交響曲第8番『ザ・グレート』