ホーム > インフォメーション > 名誉音楽監督チョン・ミョンフンと東京フィルのマーラー『復活』によせて

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2017年5月31日(水)

2001年、マエストロ・チョンと東京フィルの奏でた『凄み』


チョン・ミョンフン指揮2001年6月定期演奏会より
©K.Miura

 マーラーの交響曲第2番『復活』は特別な機会に演奏される曲に違いない。それでも1年に2、3度は聴いているから、高校生のときに初めて生の演奏会で『復活』を体験して以来もう40年近くが経ち、100公演近くは聴いたと思う。シノーポリ、マゼール、インバル、ベルティーニ、ビシュコフ、ルイージ、ゲルギエフ、小澤征爾などのマーラー指揮者たちの『復活』も聴いた。それでも、私が今まで聴いたなかで一番凄かった『復活』といえば、2001年6月のチョン・ミョンフン&東京フィルの演奏をあげたい。東京フィルハーモニー交響楽団と新星日本交響楽団とが合併して、チョン・ミョンフンがスペシャル・アーティスティック・アドバイザーに就任したあの披露演奏会である。

 何が凄かったといえば、チョンの表現の深み、真実味であり、それに応えるオーケストラの集中度、一体感、音の厚みであった。チョンのカリスマ性によって、本当に、日本のオーケストラではそれまで聴いたことがないような凄い音がしていた。


東京フィル名誉音楽監督チョン・ミョンフン
©K.Miura
 例えば、第1楽章で、弦楽器群が「コル・レーニョ(col legno)」という、弓の背で弦を叩く奏法(弓の木の部分が傷みやすいので、弦楽器奏者はあまり本気で叩かないようにする)をするシーンがあるが、あれほど凄絶に弓の木の部分が弦に当たる音がしていたのを聴いたことは後にも先にもない。最弱音での淡い色彩も素晴らしかった。そして合唱を交えたクライマックスは、まさにホールを揺るがすような圧倒的なものであった。チョンは、あのとき、希望の象徴として、敢えて東京少年少女合唱隊を賛助出演させた(通常『復活』には児童合唱は入らない)。終演後、楽団員全員が舞台から降りても聴衆の拍手は鳴りやまず、最後にもう一度、マエストロと楽団員が舞台に現れて、聴衆のスタンディングオベーションを受けていた。



マエストロ・チョンと東京フィルの新たな関係に期待

 あれから16年が経ち、昨秋、東京フィルの名誉音楽監督となったチョン・ミョンフンが再び、マーラーの交響曲第2番『復活』を取り上げる。東京フィルにとっても『復活』は特別な作品であった。前述の2001年6月の演奏会のほか、1978年5月の尾高忠明が指揮した200回定期演奏会も、1992年4月の大野和士の常任指揮者就任披露も、2010年4月のダン・エッティンガーの常任指揮者就任披露も、また、2001年1月の合併前の旧・東京フィルとしての最後の定期演奏会(指揮:沼尻竜典)も『復活』であった。


2001年、マエストロ・チョンが「音を掘りおこす」
という言葉とともに東京フィルに贈ったスコップ

©K.Miura

 近年、チョン・ミョンフンと東京フィルの関係は変わりつつあるように思われる。両者の関係が始まった頃は、チョンが東京フィルを鼓舞し、東京フィルは必死にチョンの指示に応えようとしていた。ところが、昨年の『田園』では、チョンは、東京フィルの自発性に任せ、彼らの演奏に聴き入っていた。今回の『復活』でも、より一層深化したチョン・ミョンフンと東京フィルの関係を聴くことができるであろう。そして今回は合唱を世界レベルの実力を誇る新国立劇場合唱団が担うのも楽しみ。つまり、究極の『復活』が期待できる。

 チョン・ミョンフンは、9月には、ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』を取り上げる。ベートーヴェンはマエストロにとって最も重要なレパーリーである。2002年6月から2003年12月にかけてのベートーヴェン・ツィクルスは、まさにチョン&東京フィルの初期のハイライトといえる。なかでも初日を飾った交響曲第3番『英雄』はとびきりの名演であった。情感豊かな第2楽章が今でも忘れられない。今回はより深化した名演が聴けるであろう。




 

山田 治生(やまだ・はるお/音楽評論家)

1964年、京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。著書に、小澤征爾の評伝である『音楽の旅人』、『トスカニーニ』(以上、アルファベータ)、編著書に『オペラ・ガイド130選』(成美堂出版)、『戦後のオペラ』(新国立劇場情報センター)、訳書に『レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー』(アルファベータ)などがある。


16年ぶりのチョン・ミョンフン指揮『復活』!

7月21日(金) 19:00 開演(18:30 開場)
東京オペラシティコンサートホール
7月23日(日) 15:00 開演(14:30 開場)
Bunkamura オーチャードホール
9月15日(金) 19:00 開演(18:30 開場)
サントリーホール 大ホール

指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ソプラノ:安井陽子
メゾ・ソプラノ:山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団

マーラー/交響曲第2番『復活』


チョン・ミョンフン × 東京フィルの真骨頂!ベートーヴェン・プログラム

9月18日(月・祝) 15:00 開演 (14:30 開場)
Bunkamura オーチャードホール
9月21日(木) 19:00 開演(18:30 開場)
東京オペラシティコンサートホール

指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル名誉音楽監督)
ピアノ:イム・ジュヒ*

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番*
ベートーヴェン/交響曲第3番『英雄』


主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)公益財団法人 花王芸術・科学財団(9/15)、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(9/15)
協力:Bunkamura (7/23,9/18)

公演カレンダー

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