「演奏に関しては聴き手に委ねることにしていますので、具体的に言うことはできませんが、オーケストラとの関係は明らかに変わりました。最初は仕事のパートナー、次は友だちになり、さらに良い友だちになり、そして家族のようになりました。私は今、東京フィルのことを“日本の家族”と呼んでいます。今の私たちが作る音楽からは、こうした親密さを聴いていただけるのではないでしょうか」。

　「東京フィルのアンサンブルには、深い感銘を受けます。他のオーケストラでは、きちんと演奏するまでにかなりの練習を要する場合がありますが、その意味で彼らは本当に素晴らしい。それに沢山のレパートリーを演奏しており、シンフォニーにもオペラにもフレキシブルに対応できます。東京フィルは、おそらく日本で最も多くのレパートリーを知っているオーケストラでしょう」。

　「はい、それはウィーン・フィルのようなものですね。彼らはベルリン・フィルとは違います。ベルリン・フィルは、ヴィルトゥオーゾ・アンサンブルですが、通常オペラを演奏しているウィーン・フィルは、とてもフレキシブルで、人間性が音を通じてバラエティ豊かに表現されます。東京フィルもそうだと思いますよ」。

　「『田園』は、私が愛してやまない交響曲です。奇跡的な音楽であり、人間的という点で言えば、歴史上の全交響曲の中でも最高の作品。自然が見事に描写されており、音楽を通してベートーヴェンがどれほど自然を愛していたかということがよくわかります。特に今、地球全体で自然保護に関する問題が起きていますので、この曲を聴くことには、大切な意味があると思っています」。

　「私は『田園』と第７番を組み合わせるのがとても好きです。両曲は対照的な音楽ですから、素晴らしいコントラストを描くことができます。『皇帝』は、ソリストのチョ・ソンジンの選曲ですが、これも『田園』とよく合った組み合わせですね」。

　「彼が13歳の時から何度も共演しています。ソウル・フィルで共演したソリストの中でも一番回数が多いでしょう。彼は何でも弾けるピアニスト。非常に繊細な演奏家であり、物事を学ぶ能力の高さにも驚かされます。ただ、ショパン・コンクールで優勝したのはいいことですが、色々な機会が増え過ぎるのは危険でもあります。10代後半から20代前半というのは、才能ある演奏家から真のアーティストに変わる時期。ここを注意深く過ごせれば、将来最高のピアニストの一人になるでしょう」。

　「今は当時に比べると、お互いにベーシックな要素を理解しています。演奏することで目指すべきなのは、限りなく自由な表現。そこに辿り着くには、ハードワーク、周到な準備、そして音楽家同士が親密に理解し合うことが必要です。今回は、そういった面での進化が音に表れるのではないでしょうか」。

　「決まっている公演はありませんが、もちろん常に取り組むべきであり、もっと頻繁に演奏したいレパートリーです。それに私は、どのオーケストラも『田園』交響曲をニューイヤー・コンサートで演奏したらいいのではないかと思っているんですよ」。