ホーム > インフォメーション > 東京フィルが誇る指揮者陣とおくる充実の1年に期待 | 2016 -17シーズン定期演奏会のききどころ

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2016年2月18日(木)



  東京フィルハーモニー交響楽団の2016-17シーズンは、今の東京フィルを聴くにはまさに最適のシーズンとなるであろう。なぜなら、1年間を通して、桂冠名誉指揮者チョン・ミョンフン、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフ、首席客演指揮者アンドレア・バッティストーニの3人が登場するのだから。その上、東京フィル得意のオペラも、プッチーニの『蝶々夫人』とマスカーニの『イリス(あやめ)』の2演目が演奏される。本当に楽しみなシーズンである。


桂冠名誉指揮者チョン・ミョンフンの色彩とドラマに満ちたプログラム



指揮者チョン・ミョンフン
©ヴィヴァーチェ

 2001年にスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーに就任して以来、チョン・ミョンフンは東京フィルを牽引し、桂冠名誉指揮者となった今も精神的支柱であり続けている。2003年と2005年に彼の祖国である韓国を含むアジア・ツアーを率い、2012年には創立100周年特別演奏会を指揮。2015年12月にはソウルと東京で、ソウル・フィルと東京フィル の合同による『第九』演奏会を振って、大きな成功を収めたばかり。ウィーン・フィルやベルリン・フィルにしばしば招かれ、パリやローマのオーケストラのシェフを歴任した世界のマエストロは、東京フィルのことを、「日本の家族」と呼ぶ。

 来シーズンのチョンはプッチーニの歌劇『蝶々夫人』(演奏会形式)(7月)、チャイコフスキーの交響曲第4番(7月)、ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』、第7番(9月)、など彼の十八番のレパートリーを取り上げる。

  チョン・ミョンフンの『蝶々夫人』といえば、2002年の藤原歌劇団・韓国オペラ団による公演を鮮明に思い出す。とにかくチョン&東京フィルの演奏が素晴らしかった。日本のオーケストラがピットであんなに繊細で色彩豊かでドラマティックな音を奏でるのを聴いたことは後にも先にもない。今回は、演奏会形式ということで、音響的に一層良い環境で聴けるのがうれしい。キャストには、韓国出身のヴィットリア・イェオ、イタリア出身のヴィンチェンツォ・コスタンツォ、日本出身の甲斐栄次郎など、次代を担う気鋭の歌手たちが選ばれている。


ショパン国際ピアノコンクールで圧巻の演奏を魅せる
チョ・ソンジン ©Wojciech Grzedzinski

  ベートーヴェンは、2002年から2003年にかけて行われた交響曲全曲演奏会での名演が思い出される。自然への感謝に満ちた第6番『田園』と躍動的な第7番で、ますます円熟味を増しているチョンに前回以上の名演を期待したくなる。チャイコフスキーもチョンの最も得意とするレパートリーの一つである。チョンらしい情熱的な演奏が繰り広げられることであろう。

  そのほか、昨年のショパン国際ピアノ・コンクール優勝者であるチョ・ソンジンとの共演も楽しみである。チョンとチョとは、既に何度も共演し、強い信頼関係で結ばれている。


特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフの深い抒情



指揮者ミハイル・プレトニョフ
©上野隆文

  ロシアの巨匠、プレトニョフは、グリーグの劇付随音楽『ペール・ギュント』全曲(4月)、ストラヴィンスキーの『火の鳥』(2017年2月)などを披露。『ペール・ギュント』は、語り、独唱、合唱の入る全曲版の演奏。石丸幹二を語りに迎え、ペール・ ギュントの波乱万丈の生涯を描く。


アンドレイ・イオニッツァ
©Daniel Delang

 十八番のロシア音楽からは、ストラヴィンスキーとプロコフィエフの作品を取り上げる。プロコフィエフの「交響的協奏曲」(2017年2月)では2015年チャイコフスキー国際コンクール・チェロ部門で優勝したアンドレイ・イオニッツァが独奏を務める。


首席客演指揮者アンドレア・バッティストーニの情熱と清新



イリス役のアマリッリ・ニッツァ

  イタリアの若きマエストロ、バッティストーニは、ロッシーニ、ヴェルディ、レスピーギ、ニノ・ロータ、マスカーニなど、祖国の作曲家の音楽を披露する。なかでも日本イタリア国交150周年を記念して演奏されるマスカーニの歌劇『イリス(あやめ)』(演奏会形式)(10月)に注目。日本女性を描いたオペラでは『蝶々夫人』が有名であるが、『イリス』はその6年前に初演されている。舞台は江戸時代の日本。イリスは吉原に連れて行かれるが、逃げ出そうとして死んでしまう。彼女の屍からはあやめの花が咲くというストーリー。ウィーン国立歌劇場や ロイヤル・オペラなどで活躍するイタリアのソプラノ、アマリッリ・ニッツァがタイトル・ロールを歌う。



指揮者アンドレア・バッティストーニ
©上野隆文

  ロッシーニやヴェルディはイタリア・オペラを代表する作曲家だが、ニノ・ロータは映画音楽で知られる。組曲『道』はフェリーニ監督の映画のために書かれた音楽をまとめたもの。ローマ三部作などの華麗なオーケストレーションで人気の高いレスピーギが書いた交響的印象『教会のステンドグラス』ではオーケストラの色彩が堪能できるであろう(5月)。


  そのほか、ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』(10月)、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』(2017年3月)も楽しみ。バッティストーニは、昨年末の『第九』で60分を切る快速演奏を繰り広げただけに、ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』 も興味津々。バッティストーニの情熱的なカンタービレはチャイコフスキーと相性が良いはず。


ウィーンで活躍、益々勢いを増す佐渡 裕、 桂冠指揮者尾高忠明との充実を


  オーストリアの名門、トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督を務め、首都圏のオーケストラにはあまり客演しない佐渡裕の登場もうれしい。ブルックナー、ブラームスという、ウィーンと関わりの深い作曲家の作品が取り上げられる。

 東京オペラシティ定期シリーズには桂冠指揮者の尾高忠明が登場し、オール・ドヴォルザーク・プログラムを振る。1974年から91年まで常任指揮者を務めた尾高と東京フィルの結び付きは長い。

 東京フィルが誇る充実の指揮者陣がその魅力を惜しみなく披露する2016-17シーズン、期待せずにはいられない。




山田治生(やまだ・はるお)


1964年、京都市生まれ。1987年、 慶應義塾大学経済学部卒業。著書に、小澤征爾の 評伝である『音楽の旅人』、『トスカニーニ』(以上、 アルファベータ)、編著書に『オペラ・ガイド130選』 (成美堂出版)、『戦後のオペラ』(新国立劇場情報 センター)、訳書に『レナード・バーンスタイン ザ・ ラスト・ロング・インタビュー』(アルファベータ)な どがある。



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