ホーム > インフォメーション >  【クロスオーバー・トーク】東京フィル with 坂本龍一

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2014年7月1日(火)




 しあわせで、濃密なコラボレーションだ。「Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014」、4月4日のコンサートを聴いて、素直にそう思った。坂本龍一という音楽家と彼の作品に寄せる東京フィルハーモニー交響楽団の共感が、サントリーホールを満場にした聴衆全体を包み込むように広がっていた。


 2013年5月、日本では16年ぶりとなる坂本龍一とフル・オーケストラとの共演が実現、このときは東京と大阪でコンサートが開催された。その確実な手応えのさきに今年は、ピアノ演奏だけでなく、作曲家自身が全曲を指揮して、全国各地で公演が重ねられた。ツアーは4月1日の石川県立音楽堂を皮切りに、3日大阪フェスティバルホール、4日サントリーホール、6日まつもと市民芸術館、9日りゅーとぴあ、11日東京芸術劇場、13日愛知県芸術劇場と、オーケストラの主戦場ともいえる7つの名だたるコンサートホールを舞台に展開した。


 選曲も多彩かつ意欲的なもので、坂本龍一のさまざまな時代の作品から、オーケストラに相応しいレパートリーが練り上げられた。「スティル・ライフ」「Kizuna World」から、「ボレリッシュ」「ラスト・エンペラー」、実験的な「アンガー」、藤倉大が新たに編曲した「バレエ・メカニック」まで。アンコールには「八重の桜」「シェルタリング・スカイ」「戦場のメリークリスマス」も採り上げられ、坂本作品を幅広く、美しい流れで旅することができた。


 ツアー終盤の4月11日、東京芸術劇場公演のゲネプロを前に、作曲・指揮・ピアノの坂本龍一と、コンサートマスターの三浦章宏、ホルンの森博文、打楽器の船迫優子が、この得難いコラボレーションの妙を語り合った。その対話自体が、充実した音楽づくりと自然な共感の花開いた、室内楽のような愉しさを感じさせ、次なる再会への期待に溢れていた。

司会・文:青澤 隆明




©上野隆文

感覚は「80人のバンド」

──サントリーホールでの公演を聴きましたが、すばらしいコンサートでした。作曲家と作品に寄せるオーケストラの共感がよく伝わってきました。「Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014」と銘打たれたとおり、Conducting...やPlaying with...というのとも違って、ひとつのユニットとして一体化したよいコミュニケーションが客席まで生々しく伝わってくることに感銘を受けました。ここまでツアー公演を重ねてきて、みなさんそれぞれの率直な手応えをうかがえますか?


三浦彰宏 坂本さんとも毎回終演後にお話をするのですが、回を重ねるごとにますます一体感が生まれてきている感じがしますね。


森博文 ぼくは去年も共演していますが、今年はご本人が指揮もされたので、坂本さんの作品とプレイを直接感じることができる。もちろん去年もいいコンサートだったと思いますけれど、指揮者の方がいることで坂本さんの作品とそのプレイを直接感じるというよりは、どこか間に1枚紗幕が入っているような……。


三浦 オーケストラって、どうしても指揮者に支配されるようなところがあるからね。


 そういう感じがありましたけれど、今回は坂本さんのフィーリングがじかに伝わってくるので、ぼくらの演奏にも深さが出ている気がします。


船迫優子 一ファンとして坂本さんの音楽をずっと聴いてきたので、去年は「どんなコラボレーションが生まれるのかな」という楽しみと同時に、「ちゃんと応えることができるだろうか」と、どきどきしていた部分もありました。でも、いざ始まってみると、とても雰囲気がよくて、オーケストラと坂本さんの間に豊かな音楽的コミュニケーションが成立していた。それが、奏者としてはすごくうれしかったですね。今年は、坂本さんご本人が指揮されて直接的なコミュニケーションが増したので、さらにしあわせです。


──坂本さんは、実際に今年のツアーが始まり、どのようにお感じになっていますか?


坂本龍一 「息が合う」というのは、日本語独特の表現ですけれど、まさにそれが一回一回深まっていっていますね。ぼくはソロでもやるし、少ないメンバーでもやるし、いろいろな形態で音楽をやっていますけれど、東京フィルとの共演はまさにこう、「80人のバンド」みたいな感覚ですね。目配せとか、息を合わせたりとか、すごくいいバンドに近いなという感じが、今年はしています。


©上野隆文

 ぼくの指揮はまるで自己流で、習ったこともないんですけれど、たとえば細かいテンポ感とかニュアンスとか、強弱など、みんなが意を汲んでくれて、本当にヴィヴィッドに、微妙なところもちゃんと反映してくれるので、やりやすいですよ(笑)。出てくる音も去年と今年ではまったく違う気がする。すごく濃密な音になっていると思います。メンバーもそうだし、コンサートマスターも違うからかな(笑)。その意味でも、まるでバンドだなと思って。
 やっぱりダイレクトにコミュニケーションしているということもあるんでしょうね。すごく、同じオーケストラとは思えないほど、濃密な音になっていると思いますね。


──指揮者とプレイヤーの直接の対話が活きていますよね。たとえばホルンだと、「ラスト・エンペラー」など、決めのところで坂本さんからバシッとキューが飛んできます。


 決めのところはホルンです(笑)。「もう、行くしかない」という感じですね。ぼくも中学生くらいから、坂本さんの作品にいっぱい触れてきて、自分の頭のなかにイメージがある。そのご本人から行けって言われたら、「できません」も「いやです」もない(笑)。


三浦 それから、坂本さんが「音が違う」っておっしゃいましたが、オーケストラというのは、指揮者によって音が変わるんですよ。こちらは変えているつもりはないし、毎回その作品のなかへと思うだけですが、ものすごく変わるんです。コンサートマスターでも変わるということも実はあるらしいけども、なによりも指揮者によってイメージが浸透するわけです。だから、音がいいふうに変わるというのはやっぱり、いい指揮者なんですよ!


坂本 いやぁ(照れ笑い)。


三浦 坂本さんのもっておられるイメージが美しいというか、すばらしく、深い。それが人の心に届くから、自然とそういう音になってくる。オーケストラは人数が多いから、ひとりひとりのちょっとした違いが大きくて、けっこうびっくりするくらい変わるんです。これは、オーケストラのひとつのマジックですね。


森・船迫 そうですね。




特別記事・演奏会プログラム冊子について


本記事は定期演奏会と「午後のコンサート」にてお配りしているプログラム冊子(6月号)に掲載の特別記事「東京フィル with 坂本龍一」のロング・バージョンです。
東京フィルのプログラム冊子では出演者プロフィールや曲目解説のほか、最新のトピックや、本記事のようにウェブサイトと連動した記事も随時掲載しています。7月の定期演奏会でもお楽しみに!



7月の定期演奏会


©Mayumi Nashida

7月17日(木) 19:00 開演
東京オペラシティ コンサートホール

7月18日(金) 19:00 開演
サントリーホール

指揮:大植英次

シューマン/交響曲第2番 ハ長調 作品61
ブラームス/交響曲第2番 ニ長調 作品73


ワールド・ツアー・メディア掲載情報
2014年3月、東京フィルは大植英次とともに6か国をまわる創立100周年記念ワールド・ツアーを行いました



©Martin Richardson

©K. Miura

7月21日(月・祝) 15:00 開演
Bunkamura オーチャードホール

指揮:尾高 忠明
ピアノ:清水 和音 *

リャードフ/魔法にかけられた湖 作品62
プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 作品26 *
ラフマニノフ/交響曲第2番 ホ短調 作品27

※指揮者・曲目が変更となりました。

公演カレンダー

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