ホーム

2017年1月~3月定期演奏会聴きどころ

1月定期演奏会(指揮:佐渡裕)

佐渡裕の音楽にあふれる「大男の優しさ」

 私が佐渡裕さんと初めて出逢ったのは、今から二十数年前、札幌でレナード・バーンスタインが創設した教育音楽祭PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)でのことだった。そのとき私は、思わず、「うわっ。でかっ!」と言ってしまった。すると彼は、人なつっこい笑顔を浮かべながら、(私と同じ)京都弁丸出しの口調で、「一緒やん。お互い、そないに変わらへんやん」と答えた。
 そういえば10年ほど前に、彼が突然「武満サンの音楽って聴く?」と切り出したこともあった。私が「あんまり聴かんなぁ」と答えると、「そうやろ。僕もそうやった。けど最近急に、スゴイ!と思うようになって、楽譜見て聴き直すと素晴らしい曲ばっかりやねん。ほんまに美しい綺麗な曲だらけ……」
 私は、あんたはプロの指揮者なんやから、そこまで正直に言わんでも……と心の底で苦笑いしながらも、この大男の音楽に対する純粋な気持ちに感激していた。  そんな佐渡裕さんが東京フィルの指揮台に立ち、武満徹の音楽やブルックナーの交響曲を指揮する。彼の師匠のバーンスタインは、マーラーのエキスパートとして有名で、数少ないブルックナーの録音では、まるでマーラーのような粘り気のあるサウンドを響かせている。はたして弟子の佐渡さんは、どんなブルックナーを聴かせてくれるのか?
 そしてトーンキュンストラー管弦楽団との活動を2022年まで延長することになった彼が、どんな「本場」のブラームスを聴かせてくれるのか? ワクワクするほど楽しみなコンサートだが、彼の奏でる音楽の底には、常に優しさがあふれているにちがいない。

文:玉木 正之(スポーツ&音楽評論家)



2月定期演奏会(指揮:ミハイル・プレトニョフ)

音楽の深遠を知り尽くし、無限の優しさで聴衆に幸福感を与えてくれるプレトニョフ

 プレトニョフが東京フィルの特別客演指揮者となったのは2015年4月。2年足らずで、最早オーケストラとは切っても切れない固い絆を結ぶマエストロとなった。昨年10月にはリムスキー・コルサコフの隠れた名作オペラ『不死身のカッシェイ』を演奏会形式でおこない、今年4月にはグリーグの『ペール・ギュント』を定期演奏会に乗せた。この声楽つきの二つの公演でプレトニョフが見せた情熱とオーケストラへの信頼は、驚くべきものだった。ロシアの劇場をそのまま日本に連れてきたようでもあったし、どこか懐かしく親しみを感じる世界でもあった。

 東京フィルのメンバーが長年にわたり精魂こめて作り上げてきた濃密で温かい響きと、プレトニョフの音楽哲学とは、とても近いところにある。まるで、お互いに出会うことを待っていたような相性の良さなのだ。指揮者とオーケストラの僥倖とはこのようなことを言うのだろう。

 ピアニストとしてのキャリアも本格的に復活し、現在のプレトニョフは音楽家としてまたとない充実期を迎えている。2017年2月の演奏会は、マエストロ本領発揮のロシア・プログラムで、ストラヴィンスキーとプロコフィエフのシンフォニックな名曲を聴かせてくれる。

 プロコフィエフの『交響的協奏曲(チェロ協奏曲第2番)』のソリストとしてプレトニョフに選ばれたのは、2015年のチャイコフスキー国際音楽コンクールの覇者、アンドレイ・イオニーツァ。22歳の若さである。音楽の深遠を知り尽くし、無限の優しさで聴衆に幸福感を与えてくれるプレトニョフが、どんな新しい境地を見せるのか…それにこたえるオーケストラの反応も楽しみだ。

文:小田島久恵(音楽ライター)



3月定期演奏会(指揮:アンドレア・バッティストーニ)

バッティストーニ、ロシア音楽を語る。

―ロシア音楽を取り上げる意義について
「チャイコフスキーが特にそうですが、ロシア音楽はオーケストラのなかに“歌”があって、音楽の中心にメロディがあります。そこがイタリア音楽によく似ています。哀愁、豊かな表情……。音楽のなかに強い感情をあふれさせ、作曲家の日記であるかのように表現するところが僕たちの感覚に近い。それに、チャイコフスキーの『悲愴』をイタリアで初めて指揮したのは『イリス』を作曲したマスカーニで、以来、トスカニーニを筆頭に、イタリア人指揮者がロシア音楽を数多く指揮してきた長い伝統があるのです」

―チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』について
「『悲愴』は最後のロマン派交響曲で、これまで何度も指揮してきた、僕にとって特別な作品です。最初から最後まで絶望的な雰囲気が貫かれ、ワルツや行進曲さえも悲痛な視線が注がれた絶望的な楽章になっています。それを作曲家個人の絶望に結びつけるのは簡単ですが、チャイコフスキーの視線はもっと広く、先々にまで注がれていました。『悲愴』は世界の終りの予兆です。マーラーより早く、20世紀の危機、悲しみと苦痛に満ちた荒廃の世紀を予言していたのです。もの悲しいノスタルジックな交響曲だと思われがちですが、実は、壊れた人間へと視線を投げかけた、もっと激しい音楽です。たしかにチャイコフスキーは絶望していたけれど、この交響曲を書きながら最後まで戦っていたのです。

―ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番について
「『悲愴』と並んで最も愛されているロシア音楽ですし、それにラフマニノフはチャイコフスキーを崇拝し、霊感を得るばかりか、実際的な編曲のうえでも大きな影響を受けていました。ラフマニノフは遅れて現れた最後の偉大なるロマン主義者です。ピアノ協奏曲第2番は、同時期に書かれたR・シュトラウスの『サロメ』の現代性とくらべると、ロシア教会の鐘の音を思わせるような、失われた過去への郷愁を強く感じさせます。いわば、不思議な視線を投げながら現代の街をうろつく最後の恐竜―。そんなふうに形容できるのがラフマニノフのおもしろさだと思います。

聞き手:香原斗志(音楽ジャーナリスト)

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

お電話でのチケットお申し込みは「03-5353-9522」営業時間:10:00~18:00 定休日:土・日・祝